問題を無視する危険性:現実逃避がもたらすリスクを歴史から学ぶ

問題否定 雑草辞典

歴史を振り返ると、人々が問題の存在を否定することで直面を避け、結果的に大きな代償を払った事例が数多く見られます。

「敵が強いはずがない」「災害など起きない」といった楽観的な思い込みが、危機意識の欠如を生み出し、予防策や対策を怠らせてきました。

簡単な解決法として問題の「存在を否定」することは、私たちにどれほどの危険をもたらしてきたのでしょうか。

そこで今回は、以下の言葉について紹介したいと思います。

『問題を解決するもっとも簡単な方法は、その存在を否定することである』
 
敵軍が強い筈がない。
公害などない。
津波など起きない。
原発事故の汚染被害なんて無い。
地震が起きるはずなど無い。
神国日本が負けるはずはない。
黒船が来るはずない。

日本の歴史だけでさえ、見返すと、どれだけ問題の存在を否定してきたか……

問題を「否認」する心理

人間は、恐ろしい問題に直面したとき、それを認めたくないと感じることがあります。

これは恐怖や不安、無力感に対する自然な心理的反応で、心理学では「否認」という防衛機制として説明されます。

否認とは、目の前の現実を見ないふりをしたり、問題の深刻さを過小評価したりすることです。

これによって一時的には心の平穏が得られるかもしれませんが、結果として状況が悪化し、被害が拡大するケースも少なくありません。

否認は人の心を一時的に守る働きがありますが、それが長く続くと本来の解決が遠のき、社会や個人に大きな影響を及ぼすこともあります。

以下では、日本の歴史において「問題を否認したこと」により大きな代償を払った例をいくつか見ていきます。

歴史に見る「否認」の例

1. 太平洋戦争と「神国日本」の信念

第二次世界大戦中、日本の指導層や一部の国民は「日本は神の国であり、戦いに負けるはずがない」と信じていました。

この「神国日本」という思想は、日本が戦争の被害や敵国の勢力を過小評価する原因となりました。

たとえば、戦況が悪化しても本土への空襲の危険性を軽視し、勝利を疑わないままでいました。

日本が無条件降伏を決意する直前まで、一部の軍や国民は「神国日本は必ず勝つ」と信じていましたが、この否認が招いたのは悲惨な敗戦と甚大な被害でした。

戦況悪化を直視して早めに講和の道を模索していれば、多くの命が救われた可能性がありますが、「否認」によってその機会が失われてしまいました。

2. 東日本大震災と原発事故

2011年の東日本大震災における原発事故もまた、「問題の否認」が大きな要因となった例です。

日本は地震大国であるにもかかわらず、福島第一原子力発電所の設計や防災対策は地震や津波に対して十分な備えがされていませんでした。

設計段階で「津波は想定外の大きさにならない」という判断が下され、重大なリスクが過小評価された結果、事故が発生し、広範囲にわたる放射能汚染が引き起こされました。

また、事故直後にも、被害の拡大を防ぐための情報が一部で秘匿され、住民の避難が遅れるなどの混乱が生じました。

これも「否認」に基づく情報操作の一例であり、被害を過小評価したために多くの人々が被ばくの危険に晒される結果となったのです。

3. 明治期の「黒船来航」

1853年の黒船来航は、幕末日本の体制を根本から揺るがした出来事です。

当時、アメリカのペリー艦隊が浦賀に現れ、開国を迫りましたが、江戸幕府はその脅威に直面することを極度に恐れ、当初は黒船を「脅威ではない」と見なしていました。

さらに、その後の対応も遅れがちであり、現実を直視することを避けたために日本は不平等条約を結ばざるを得ませんでした。

「日本は外国に支配されるはずがない」という思い込みから、幕府はペリー来航の本質的な意味を否認し、適切な準備を怠りました。

その結果、国内は混乱し、明治維新という形で大きな変革を迎えることになりました。

否認がなく、危機に対処する積極的な行動がとられていたなら、日本は異なる道を歩んでいた可能性があります。

なぜ「問題の否認」が繰り返されるのか

こうした否認が生じる理由には、いくつかの心理的、社会的な要因が考えられます。

  1. 恐怖と不安の回避
    問題を認めることは、その解決に向けての対策を講じなければならないことを意味します。

    しかし、問題が大きければ大きいほど、対応に必要なリソースや労力も多大なものとなり、それが「解決するのは難しい」という無力感を引き起こします。

    そのため、現実を否認することで、一時的な安心感を得ようとするのです。

  2. 集団心理
    特に組織や国レベルでは、集団の中で多数が否認を選ぶと、その状況に反する意見が出しにくくなる傾向があります。

    例えば、戦時中の「日本は必ず勝つ」という思想は、反対意見を許さない空気を作り出し、正確な情報や冷静な判断をも阻んでしまいました。

    このような集団心理が働くと、問題の存在そのものを無視する方が「安全」と感じられてしまうのです。

  3. 変化を恐れる心理
    問題を認めると、現状を変える必要が出てきますが、変化にはリスクや不確実性が伴います。

    黒船来航の例でも、日本がこれまでの鎖国体制を変えることへの恐れが否認を促し、幕府は新しい時代に備える機会を逃してしまいました。

    人は変化への不安から、今の生活や価値観を守りたいと考えるものです。

問題の否認を超えるために

否認が繰り返される原因を理解した上で、どのようにして問題の否認を克服できるのでしょうか?

以下に、否認を防ぐための3つのポイントを紹介します。

  1. 現実に目を向ける姿勢を持つ
    まずは、問題が存在することを認める勇気が重要です。

    「津波は来ない」「敗戦はしない」などの決めつけを排し、最悪の事態も視野に入れて現実的な対策を検討することが大切です。

  2. 多様な視点を尊重する
    問題に対する異なる意見や批判的な意見を排除せず、多様な意見を取り入れる姿勢を持つことが、否認を防ぐ助けになります。

    集団の中で対立意見を尊重し、積極的に耳を傾けることで、冷静で客観的な判断が可能になるでしょう。
  3. 問題を早めに解決することのメリットを理解する
    問題を否認してその場をしのぐことが一時的には安心感をもたらしますが、後になってさらに大きな代償を払わなければならなくなることが多いと認識することも重要です。

    未来のリスクを見据えて、早めに問題に対処することで被害を最小限に抑えることができるという意識が重要です。

結論

「問題を解決する最も簡単な方法は、その存在を否定することである」という言葉は、歴史上、そして私たちの日常生活でも、強い意味を持っています。

現実を否認し続けることは、結局は自らを苦しめる結果を招くのです。問題を避けるのではなく、その存在を認め、冷静に対応する姿勢が今後ますます重要になるでしょう。

タイトルとURLをコピーしました