古代から現代までの中国の歴史修正を紐解く

古代中国 雑草辞典

歴史は、過去の事実を記録し、未来へと引き継ぐための重要な手段です。
しかし、同じ出来事が時代や国によって異なる視点から解釈されることがあるのも事実です。

これが「歴史修正」という現象です。

歴史修正は新しい事実や資料の発見によって自然に行われる場合もありますが、時には特定の政治的、社会的な意図に基づいて行われることもあります。

そんな今回は、中国における歴史修正を紐解く言葉を紹介する。

古代中国では、政権が変わると前政権を攻撃し否定する事で新政権の正当性を主張するという風習が存在した。そのため、政権が変わるたびに歴史が編纂し直され、都合の悪い歴史が削除されて新たに作られた歴史に差し替えられてきた。

古代中国における「歴史の編纂と改訂」の風習は、政権交代のたびに新たな支配者が正当性を確立し、社会秩序を安定させるために活用されたものでした。

この「歴史の改訂」は、新政権が自らの権力基盤を強化するために用いた重要な政治手段でした。

時の権力者が、前政権の行いを批判し、正当な歴史を記述するという名目で新たな歴史観を構築しました。

新たな歴史観を作ることで、自らの支配権を神聖かつ不可侵なものとして示そうとしました。

歴史編纂の背景:正統性の必要性

古代中国では、天命(天から与えられる統治の正当性)が非常に重視されました。

新たな政権が成立すると、前政権は「天命を失った」とされ、天意に背いた存在として退けられることが通例でした。

したがって、新しい王朝は前政権の行いを批判し、天命が自らに与えられた理由を明確にする必要があったのです。

例えば、春秋戦国時代の孔子の思想が深く影響を及ぼした歴史編纂の伝統には、道徳や倫理に基づく「正統性」の視点が含まれていました。

新たな統治者は自らの治世を「正統」なものであると強調するため、歴史の改訂が行われ、前政権の失政や悪政が誇張されることが少なくありませんでした。

歴史改訂の具体例

特に有名な例が、漢の武帝の時代に編纂された『史記』です。

『史記』の編者司馬遷は、秦の滅亡から漢の成立に至るまでの歴史を記述するにあたって、漢王朝の視点から秦王朝の失政を強調しました。

秦の始皇帝による中央集権化と苛酷な法律制度が非難され、漢の新たな「仁政」の下で社会が安定したことが示されました。

このように、政権が変わるたびに編纂された歴史書は新たな王朝にとっての「正史」とされ、その内容が以後の歴史学にも大きな影響を与えました。し

かし、時には事実が都合よく改変され、前王朝の功績が軽視されたり、必要に応じて意図的に歪められたりすることもあったのです。

歴史編纂における「修史」の制度

唐の時代になると、歴史改訂の慣習は制度化され、官僚が歴史を記述・管理する「修史」という制度が発展しました。

これは、帝国の支配が「正しい歴史」の中で正統性を保証するための重要な役割を担っていたことを示しています。

唐王朝における『旧唐書』や『新唐書』の編纂は、その典型的な例です。

修史は、政権交代後に新たな視点からの歴史観を構築するだけでなく、国の安定政治の正統性の維持にも貢献しました。

歴史改訂の利点と弊害

新たな政権にとって歴史改訂にはいくつかの利点がありました。

まず、前政権の失敗を強調することで、自らの支配がより優れたものであるという認識を人民に植え付けることができました。

また、前政権に対する批判を通じて、王朝の変遷は自然の流れとしての「天命」の結果であると理解され、新政権が安定して支配を行うための正当な土壌が築かれました。

しかし、一方でこの風習には大きな弊害も伴いました。

歴史改訂によって、政権が変わるたびに過去の歴史が一部改竄されたり、消去されたりすることで、史実が歪められることがありました。

例えば、漢の高祖劉邦が秦を滅ぼしたとき、秦の悪政が誇張されて記述され、その結果、秦王朝の政策の中には実際には効果的だった施策も否定的に扱われた可能性があります。

このように、時の政権の意向により書き換えられる歴史は、真実の姿を隠してしまうことが多かったのです。

改訂された歴史の現代への影響

中国の歴史改訂の風習は、現代においても大きな影響を及ぼしています。

現代中国においても、歴史的事件や人物の評価は頻繁に見直され、特定の思想や体制を支持する形で再評価されることが見受けられます。

古代から続くこの風習は、歴史が単なる過去の記録ではなく、政治や社会の安定に深く関わるものであることを象徴しています。

歴史とは単なる事実の羅列ではなく、特定の視点や価値観に基づいて記述される「物語」でもあります。

古代中国における歴史編纂と改訂の風習は、新たな政権が自らの正当性を確立するための有効な手段であり、社会の安定化に寄与してきた一方で、真実の歴史を捻じ曲げる可能性も含んでいました。

この伝統が示すものは、歴史というものが時代の価値観や支配者の意図によって絶えず変容しうる、いわば「生きた書物」であるということです。

結論

このように、古代中国における歴史の改訂は、政権交代ごとに繰り返され、新たな視点からの正統性の構築と、前政権の否定が行われました。

新たな政権が自らの地位を確立し、国の安定を図るための戦略として、歴史の改訂が行われたこの風習は、単なる過去の出来事ではなく、現代における歴史理解のあり方にも影響を与え続けていると言えるでしょう。

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